ビワマス 待望の新学名 読売新聞オンラインより

ビワマス 待望の新学名

2025/07/29 10:30

琵琶博など 研究17年 「固有種」お墨付き

ビワマス 待望の新学名:写真 : 読売新聞

 オンコリンカス・ビワエンシス――。ビワマスに新たに付けられた学名だ。意味は「琵琶湖にいるサケの仲間」。実は100年前に付けられた学名の種と異なると指摘されたのを機に、ビワマスは35年間にわたって名無しの状態だったが、県立琵琶湖博物館の研究グループが遺伝子解析などを実施。学問的にも、国際的にも琵琶湖の固有種としてのお墨付きを得た。(小手川湖子)

保全活動 進展へ期待

 ビワマスはサケ科の淡水魚で、体長は約40~50センチ。主に水温15度以下の北湖の深い場所に生息しており、環境省のレッドリストで準絶滅危惧種に分類されている。芦ノ湖(神奈川県)など他の地域にも放流されているが、交雑が進んで純粋なビワマスがいるのは琵琶湖だけという。

 当初は、1925年に米国の研究者が命名した新種「オンコリンカス・ロヅラス(バラ色のサケ属)」の標本と同じ種だと考えられていた。しかし、研究が進み、90年に日本人研究者が「ロヅラスはビワマスでない」と指摘。以降、学名が宙に浮いていた。

 転機は2009年。同博物館特別研究員の藤岡康弘さんが著書「川と湖の回遊魚ビワマスの謎を探る」(サンライズ出版)の中で学名がないことに触れたところ、今回の共同研究者で京都大の中坊徹次名誉教授から、学名をつける研究を提案された。

 学名は交雑種には付けられないため、まずは研究に使う標本が、アマゴやヤマメといった近縁種との交雑がない純粋なビワマスであることを確認。その上で、近縁種との目の大きさや魚特有の消化器官の数、特定部位のうろこの数の差異だけでなく、遺伝子解析で塩基配列が異なることも明らかにした。

 研究グループは、6月21日付の国際学術誌で新しい学名を発表。17年がかりで悲願を成し遂げた藤岡さんは「多くの人の励ましのおかげ。途中で亡くなられた方もいる。間に合うように学名を付けたかった」と振り返る。

 ビワマスを巡っては、河川改修で産卵場所が失われたり、琵琶湖に持ち込まれた近縁種と交雑したりする恐れがある。このため、野洲市の中ノ池川や、東近江市の渋川で産卵しやすい環境まで 遡上そじょう できるよう魚道を設置するなど、県内各地で保全活動が行われている。今回の学名付与で種としての認識が広まり、保全への機運が高まることも期待される。

 琵琶湖には、他にも学名が確定していない魚がいるという。藤岡さんは「若い人たちにぜひやってもらいたい」と、次世代の研究に期待を寄せている。

世界に一つ 標本を展示

 県立琵琶湖博物館では9月28日まで、今回の研究で使ったタイプ標本を水族企画展示室の特設コーナーで展示している。資料保存のため一般に公開するのは珍しく、特に8月3日までは、学名を付ける際に重要な役割を果たした「ホロタイプ(正基準標本)」と呼ばれる唯一の個体=写真=を「最初で最後の機会」として陳列する。

 研究グループの一員で、同博物館主任学芸員の田畑諒一さんは「将来は魚の研究者になりたい子どもらに見てもらえれば。ビワマスが今後失われずに保全できるよう、自分に何ができるか標本を通して考えてほしい」と話している。

 午前9時半~午後5時で、常設展示の観覧料が必要。問い合わせは同博物館(077・568・4811)。